「よく考えた上で、お返事いたします。帝大病院に入院しているお兄さまの病院代のお支払いに、蔵の骨董品を二束三文で手放したのでしょう?お金が必要なのは基尋にもわかります。玄関の古伊万里の大皿もいつの間にか、無くなっていましたし……」
事実だった。ほっと大きな息を吐くと、柏宮子爵は大きなマホガニーの椅子に腰を落とした。それも豪奢な英国家具で、わざわざ鎌倉彫の職人を英国に
dermes 脫毛留学させて、現地で作らせたものだ。
当たり前に湯水のごとく消費してきたこれまでの付が一気に噴出し、襲いかかってきているような気がする。大切な嫡男は戦地で大怪我をし気鬱のまま現在も入院中だ。元の健康な体に戻れるとはとても思えない。長女は成金に嫁がせた。そして、可愛いばかりの二男を預けないかと言って来たのは……
柏宮子爵は顔を覆った。
「お前をやりたくない……」
「お父さま。」
「例えお前が年齢よりも聡明なのだとしても、基尋はまだ元服の年にも満たない子供ではないか。あそこは華やかに見えるが……この世の地獄だよ。……男相手に男が身を売る苦界、本郷宮がお前をやらないかと言って来たのはそう
dermes 脫毛いう場所だ。」
基尋はその場に伏すと、父に向かって手を付いた。
「基尋は、大江戸に参ります。本郷の伯父さまにお願てください。どうか……このとおりです。」
「基尋……」
「お母さまの年始のお着物を、いつも通り三越で買をなさったのでしょう?お母さまに泣かれると、基尋も困ります。」
「しかし、徳子には何と話をすればいいだろう。」
「基尋は、しばらく欧羅巴(よーろっぱ)に遊学させたとおっしゃってください。」
そして父は、言われるままに基尋の小さな手を、本郷宮の手に渡
実は、縁戚の本郷宮は正室の子ではない。
嫡男の早逝で、成人してから本郷宮を相続はしたものの、商家の出の側室腹風情と散々陰口をたたいた華族社会に溶け込めず、彼らをひどく憎んでいた。
中でもその頃ずっと思い続けていた公家の姫君に、求婚しようとした矢先、あっさりと横合いから攫うように射止めた貴公子、柏宮子爵(基尋の父親)に
dermes 價錢は歪んだ感情を抱いている。
折りあらば意趣返ししようと、ずっと機会をうかがっていた。
どれほど日々の暮らしの中で気張っても、自らの力ではどうにもならない、下賤と言われ続ける母方の平民の血統が本郷宮を苦しめた。
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